AgriArt 感謝する自然な気持ちが「祭り」を産む

奈良時代に阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)が19歳で遣唐使として中国に渡り唐の高等官になったが、その才能が故に帰郷をなかなか許されなかった。
「天の原 ふりさけみれば 春日なる みかさの山に 出(い)でし月かも」は、阿倍仲麻呂が読んだ百人一首の中でも最もよく知られる歌となっていますが、
〈大空を仰いでみると 月が出ている 昔、奈良の御蓋(みかさ)山から出ていた月と同じなんだろうなー〉という意味で、遠い異郷にあって月を観て故郷を忍ぶ歌です。
私たち夫婦がやっている田んぼや畑は「観月自然農園」と名付けています。
「観月自然農園」は、春日大社の奥に広がる御蓋山の南に位置し、世界遺産の春日原始林から流れる川の水で田んぼを満たしています。
7〜8年前に大阪から農業をやろうと引っ越してきて、一昨年、農業を従事して4年ほどのころ、自然の恵みの圧倒的な深さを実感する日々が、・・・そして、自然に対しての感謝の気持ちを表現しようと、昨年の9月22日(中秋の名月)に、田んぼで観月祭を行いました。

自然に対する圧倒的な恐れや感謝の気持ちが「祭り」というものを自然に発生させるという実感と現実を初めて目の当たりにした瞬間でもあります。
自然に感謝して大切にしようと言うけれど、やってみないと実感は無かった。
実際に米や野菜を作って生活すると、陽射し雨風の変化に敏感になる。・・・雨が降らないと細る山からの水。気温が下がって作物がうまく育たなかったり、虫たちの害もあり・・・その都度、自然にわき上がってくる祈るような感情に出会う。
奈良時代には、もっと水害など自然災害が多かったのだろう。
自然の怒りを鎮めるための人々の祈りが、たくさんの祭りや神社を作ったのだろうと分かってくる。

昨年の夏、親しい友人に、田んぼで「観月祭」をやろうと思うんだけど、笛を吹いてくれる方はいないかなーと聞くと、
たまたま、一昨年の秋にコンサートに行った時に、そこに出演していたミュージシャンの山本公成さんという方を知っていて、一度、主旨を言って聞いてあげると・・・。
で、来てくれました。御礼は、我が家の田んぼで出来るお米と、黒米と、我が家で初めて獲った蜂蜜です。
ご近所の方々も竹で松明を作ってくれたり、花を生けてくれたりで、20数名集まってくれました。
公成さんの笛の響きが山を越え、厚ーい雲で諦めていたお月さんが、雲の間から覗くように顔を見せてくれました。
まさに、阿倍仲麻呂が観た・・・みかさの山に 出でし月かも・・・ですね。