重箱式養蜂箱の採蜜作業:大和ミツバチ(日本ミツバチ)

大和ミツバチ(ニホンミツバチ)のハチミツを採る採蜜作業は、7月か10月に行います。大和ミツバチの場合、セイヨウミツバチ(注)と違ってすべての群れの養蜂箱から採蜜出来るとは限りません。

春、昨年から飼育している蜂の群れ(コロニー)が入っている養蜂箱では、蜂たちが花蜜をいっぱい集めて巣板を延ばし、今年捕獲した蜂の群れも、勢力のある群れは、同様に巣板を延ばします。
しかし、大和ミツバチの群れには、勢力のない群れがあります。つまり、ひとくちに蜂の群れといっても、勢力のある群れは、全体の約1/3、中間の勢力は約1/3、勢力の弱い群れは約1/3でしょうか。
勢力のある群れは、巣板を延ばし7月か10月のどちらかには採蜜できます。
採蜜できるのは、中間勢力も入れて全群(全ての養蜂箱)の50%〜70%程です。

◎伝統的な洞での養蜂

伝統的な洞(丸太をくり抜いた養蜂箱)での採蜜は、年に一度巣箱の中のすべての巣を取って採蜜します。その場合、ミツバチは居場所を失い、森に帰らざるを得なくなります。どこかに新たな巣を造り、群れの延命を計ろうとします。
しかし、採蜜する時季が、蜜源が少ない真夏や晩秋以降の場合、食糧を持たないミツバチは消滅する可能性が高くなります。
昔の大和ミツバチの養蜂は、おおらかでそこまで考えることは少なかったようです。
中には、群を延命させるために巣蜜の1/4〜1/3の量を採って飼育をすることもありましたが、大和ミツバチという野生種のミツバチは、逃亡することが多く結局、全巣板を撤去することが多かったようです。

◎伝統を継承した重箱式蜂箱

重箱式の養蜂箱は、重箱のように蜂枠を重ねて養蜂箱が作られています。
この養蜂箱は、伝統的な洞の自然な空間を形作ります。そして、蜜が充分に溜まり季節を見計らい採蜜します。
この方法は、図のように大和ミツバチの巣の形成構造に合致しています。
幼虫を殺さず、貯蜜部分を抜き取ります。
重箱式養蜂箱は、ミツバチに負担をかけない採蜜を可能にしました。
また、群れと巣の増殖に合わせて巣枠を追加し養蜂箱を大きくします。
このように野生種の大和ミツバチの生態に合わせて養蜂の仕組みを作り上げることが、セイヨウミツバチと大きく異なる点です。

◎採蜜の実際

採蜜時期や方法を間違えるとミツバチは逃亡します。
採蜜後に蜜源植物が多くあるタイミングに行います。
そして、行うかどうかの判断は、
(1)貯蜜が充分か・・・巣箱を抱えて充分重さを確認します。
(2)巣板の増殖常態・・・巣箱を覗いて、巣板が3段半以上になっているかを確認します。
(3)群れ(コロニー)の勢い・・・働き蜂で巣板を被い隠すほど多いかを確認します。
以上が充分な状態である場合は採蜜を実行します。
ミツバチにストレスを与えないように素早く行います。

◎巣箱内の新陳代謝

採蜜する場合、スムシ(蛾の幼虫で、巣を食い荒らし成長する)に侵されていないか、巣箱台にスムシやその糞が落ちていないかを確認しておきます。巣が破壊されるほど大量のスムシに侵されている場合、採蜜時の巣の常態によっては全撤去する場合もあります。
大和ミツバチ養蜂は、スムシ対策が欠かせません。養蜂の大敵です。
しかし、自然界でのスムシは、留守になった巣箱の巣板の掃除もしてくれます。
巣板を食い尽くし、巣箱を刷新してくれます。
食い尽くされて、スムシもいなくなった巣に新たなコロニーが移り住むのです。
自然界では、スムシが大和ミツバチの生活環境の新陳代謝による循環に一役担っていると考えられます。鳥瞰的に自然界の敵は、自然環境維持においては共生する相手でもあるのです。

大和ミツバチの採蜜は、巣の増殖による古くなった巣を撤去することになるため、
巣箱内の環境の新陳代謝を促す行為でもあります。

(注)一般に流通しているハチミツ商品はセイヨウミツバチのものです。
年に1〜2回採蜜する大和ミツバチは、多くの花々の蜜を集めますから百花蜜と言われます。
ですから百花蜜には、多くの種類の酵素を含んでいます。
それに対してセイヨウミツバチは、大和ミツバチの採蜜量の5〜10倍以上と多く、その採蜜回数も年7〜10回と比較にならないほどです。特徴は、レンゲ蜜やニセアカシア蜜、クリ蜜などその時々の花蜜が採取されます。